「資格を取得してキャリアアップにつなげたい」「資格があれば転職に役立つかも」。そう思い立って資格試験の勉強を始めめたものの、三日坊主で終わってしまった……。みなさんのなかには、そんな経験がある人もいるのではないでしょうか。特に社会人は、勉強に使える時間が少ないうえに、仕事と勉強を両立させるためのモチベーションを維持するのが大変。正直、途中で挫折してしまう気持ちもわからなくはありません。
とはいえ、忙しい日々を送りながらもコツコツと勉強し、目標を達成する人は確実にいます。多忙な著名人やタレントが難関の資格を取得したり、大学に合格したりするのもその一例といえるでしょう。では、いったいどうすれば三日坊主にならずに勉強を継続できるのでしょうか。今回は、勉強法のエキスパートである西岡壱誠さんに、やり抜く力の磨き方や勉強を習慣化するテクニックを教えてもらいました。
1996年生まれ。偏差値35から東大受験を決意。2浪が決まった崖っぷちの状況で開発した独自の勉強法で、東大模試全国第4位となり、東大にも無事に合格した。そのノウハウを全国の学生や教師に伝えるため、2020年に株式会社カルペ・ディエムを設立。全国の高校で高校生に思考法や勉強法を教えているほか、教師には指導法のコンサルティングを行っている。著書に『現役東大生が教える「ゲーム式」暗記術』『読むだけで点数が上がる! 東大生が教えるずるいテスト術』(ともにダイヤモンド社)、『東大読書』『東大作文』『東大嗜好』『東大独学』(いずれも東洋経済新報社)などがある。
- まずは自分の現在地を知り、目標を2つ設定することからスタート!
- 勉強をルーティン化するには、「場所」で習慣をつくるのが効果的
- 「テクノロジーの力を借りる」のも、勉強をルーティン化する方法のひとつ
- 試験勉強はマラソンと同じ!?常に80%の力で完走を目指すのがポイント
まずは自分の現在地を知り、目標を2つ設定することからスタート!
──西岡さんには前回、集中力の高め方を教えていただきました。しかし、高い集中力を発揮できるようになったとしても、勉強を継続できなければ意味がありません。三日坊主になることなく、資格試験当日まで勉強をやり抜くには、どうすればいいでしょうか。
西岡:資格試験に臨む人には、「資格取得」という具体的な目的があるわけですよね。それでも三日坊主になってしまうのは、「勉強時間が確保できない」「嫌いな勉強をするのがつらい」などが原因だと考えられます。だったら、目的地に最短かつ楽なルートで向かってみてはどうでしょう。
最短かつ楽なルートをたどるには、それに最適化した計画が必要です。計画の第一歩となるのは、「自分の現在地を知ること」なので、まずは資格試験の過去問を解くことから始めてみましょう。たとえば、200点満点中160点が合格ラインの試験だとして、過去問で100点しか取れなければ、それが現在地です。
──合格ラインの160点まで、60点足らないことがわかりますね。
西岡:それがわかったら、次に「足りない60点を資格試験までに埋めるにはどうすればいいか」を自分なりに分析します。そして、「自分は科目Aが弱いから、この時期までにあと20点取れるようにしよう」「科目Bは、この時期までにあと10点取れるようにすればOK」と時期ごとに目標を設定し、必要な勉強時間を計画に盛り込んでください。
──日々の勉強に対して具体的な計画を立てるわけですね。ただ、気負いすぎて身の丈に合わない計画や目標を立ててしまうと、それはそれで三日坊主の原因になりそうな気がします。
西岡:スタート時は、誰もがやる気にあふれているので、欲張って高い目標を立てがちですよね。そのせいで、最初の2日は計画通りに勉強できていたのに、3日目あたりで計画にほころびが生じてくる。すると、急に「もうダメだ」という気持ちになり、そのうち勉強自体をやめてしまう。人間にはそうした傾向がありますから、心配になるのはもっともです。
そこでおすすめしたいのが、最低限達成したい「最低目標」と、理想的な達成ライン「最高目標」の2つの目標を設定する「二重目標」という考え方です。
高い目標だけをピンポイントで決めてしまうと、目標が達成できなかったときに「失敗してしまった」「もういいや」と考えがちです。一方で、「最低でも問題集を10ページこなして、もし20ページやれたら最高」といった具合に、「最低」と「最高」の間に幅を持たせたらどうでしょう。まずは最低目標をクリアし、そのうえで「最高目標までやれるかどうか」を考えるようになるはずです。
つまり、「最高目標」が達成できなかったとしても、「最低目標」はクリアできているので、「もういいや」と落ち込んだり、勉強自体をやめてしまったりという最悪の事態を避けることができるんです。
──なるほど、目標を2つ設定するという発想はありませんでした。
西岡:東大生の多くが実践している手法なので、ぜひ試してみてください。
勉強をルーティン化するには、「場所」で習慣をつくるのが効果的
──三日坊主になりにくい計画の立て方はわかりました。となれば、次の問題は「自分が計画通りに日々の勉強を進められるかどうか」です。
西岡:世のなかの大多数の人は勉強が嫌いだったり、苦手だったりしますからね。やりたくないことは、まあやらないでしょう(笑)。ただ、そこを突破する方法もちゃんとあります。それは「習慣化」です。勉強を日々の歯磨きやお風呂のように、無心でやれるルーティンにしてしまえばいいのです。
では、具体的にどうすれば勉強を習慣化できるか。そのひとつに「場所」で習慣をつくるという方法があります。家だとダラダラしてしまう人も、学校や職場へ行けば、当たり前のように勉強したり仕事したりしていますよね。それは、学校や職場での行動が習慣化されているからです。
一方、家には「休むための場所」というイメージがあり、それが自分のなかで固定化されてしまっていることが多い。だから家では仕事や勉強ができず、習慣化にもつながりにくいのです。
──つまり、家以外の場所で勉強したほうがいいということですか?
西岡:そのとおりです。カフェや図書館のほか、最近はコワーキングスペースのような施設も増えています。どこでもいいので「自分はここで勉強する」と決め、そこへ毎日通うようにしてください。それを日々のルーティンにして「ここは勉強する場所」だと少しずつ身体に染み込ませていけば、きっと習慣化できると思います。
──その場所へ着いたら自動的に勉強を始められるようになるわけですね。確かに、作家やエッセイストのなかにも家では書けない人がいると聞きます。
西岡:「場所」を用意するのは、単純なようでかなり有効的な方法です。家から出るのが難しい人の場合、キッチンや廊下など、ふだんくつろぐスペース以外の場所で勉強すれば、習慣化しやすいかもしれません。
「テクノロジーの力を借りる」のも、勉強をルーティン化する方法のひとつ
──三日坊主を回避するために自分を変えようとするのではなく、環境を変えてみる。誰にでも簡単に実践できそうです。
西岡:あわせて、三日坊主防止の仕組みをつくっておくのもおすすめです。いろいろな方法が考えられますが、いちばん手軽なのはスマホアプリの活用ではないでしょうか。みなさんのスマホにもリマインダーアプリが入っていますよね。これが意外と使えるんです。
自分がやらなければならない勉強、やろうと思っている勉強をリストアップしてリマインダーに登録すれば、何度でもしつこく通知してくれるので、忘れたり無視したりがしにくくなります。勉強を開始する時間をリマインダーに設定して、「リマインドがきたら何を置いても絶対に勉強を始める」というルールにするのもいいでしょう。
要は、リマインダーを使って未来の自分に「声がけ」することで、三日坊主を防止するわけです。
──ChatGPTなどの生成AIと組み合わせれば、もっといろいろな仕組みがつくれるかもしれません。
西岡:面白そうですね。「スマホにリマインドがくるだけでは物足りない」という人には、同じ目標を持つ複数のメンバーでチームをつくり、写真やメッセージを投稿しあうSNS型アプリもおすすめです。自分ひとりだと三日坊主になりやすいですが、他人を巻き込んで一緒にやれば、簡単にはやめられませんからね。
資格取得という同じ目標を持つチームメンバーたちといつもつながっていて、勉強を継続できたら褒めてもらえる。サボっていたらダメ出しされる。そんな環境があると、より継続しやすいはずです。
試験勉強はマラソンと同じ!?常に80%の力で完走を目指すのがポイント
──試験勉強が続かなかった人に話を聞くと、「暗記でつまずいて勉強が嫌になった」というケースが多いようです。せっかくの計画を無駄にしないために、効果的な暗記術についても教えていただけますか。
西岡:よく言われることですが、何かを覚えるときは読むよりも、書いて頭に入れたほうがいいと思います。とはいえ、人は覚えたつもりのことをすぐに忘れてしまいます。がんばって英単語を10個覚えたはずなのに、次の日に新しい単語を10個覚えると、前日に記憶したことを忘れてしまうんですよ。
それでも記憶に留めるには「反復」するのみ。覚えては忘れ、忘れては覚える……。これを何回繰り返せるかがすべてだと言っていいでしょう。なので、最初に頭に入れるときは「覚えるぞ!」と力まずに、覚えたつもりのものに1秒でもいいから毎日触れる機会をつくるようにしてください。
──1秒なら、昼休憩や電車での移動中などにできますね。
西岡:それで十分です。スマホアプリや単語帳を持ち歩くようにして、スキマ時間に目に触れさせましょう。ちなみに、暗記するのに適した時間帯は夜と言われているんですよ。睡眠中に脳が情報を整理して、長期記憶へと変換してくれるので、昼よりも夜のほうが効率よく暗記できるのだそうです。
──極端な話、寝る前にベッドのなかで単語帳を眺めるだけでもOKですか?
西岡:それだけでも、やらないよりは全然いいと思います。
──試験勉強=つらく長いものというイメージがありましたが、西岡さんのお話をうかがっていると、それほど苦労せずに続けられる気がしてきました。
西岡:試験勉強を運動に例えると、短距離走ではなく長距離走です。マラソンのような長距離走に挑むときに必要なのは、ゴールまでのコースを把握し、適切なペース配分を考えることですよね。勉強も同じで、全力で走るとすぐにバテてしまうので、常に80%程度の力でやることが大事です。
「今日はもうちょっとがんばれそう」と感じる日があっても、「明日もあるしやっぱり早く休もう」と、切り上げるくらいでいいと思います。周囲の環境やテクノロジーの力も借りつつ、「ゴールまで無理なく走り切るにはどうすればいいか」を考えてみましょう。
著書情報
『なぜか結果を出す人が勉強以前にやっていること』
著:チームドラゴン桜
出版社:東洋経済新報社
あわせて読みたい