
中小企業診断士の国家資格取得に興味がある方のなかには、「どのような試験科目がある?」「各科目ではどんなことが問われるの?」と気になっている方が多いのではないでしょうか。
受験を考えるうえでも、試験勉強を始めるうえでも、試験の全体像をつかみ、各科目の特徴を理解することはとても重要です。
この記事では、中小企業診断士試験の科目構成と各科目の内容を分かりやすく解説します。科目合格制度の活用法や、優先的に学習したい科目も紹介しますので、受験を検討中の方はぜひ参考にしてください。
- 1次7科目+2次4科目。中小企業診断士試験の流れ
- 中小企業診断士第1次試験科目の内容・勉強法・科目合格率
- 中小企業診断士第2次試験科目の内容
- 中小企業診断士試験の科目合格・科目免除制度とは
- 中小企業診断士試験対策で優先すべき科目は?
- 中小企業診断士の試験科目を把握したら、合格を目指して勉強を始めよう
1次7科目+2次4科目。中小企業診断士試験の流れ
中小企業診断士試験は、第1次試験と第2次試験で構成されています。
第1次試験は7科目の筆記試験で、マークシート方式による多肢選択式。第2次試験は、短答式・論文式による4科目の筆記試験と、口述試験です。筆記試験の科目は以下のとおりです。
【第1次試験】
- 経済学・経済政策
- 財務・会計
- 企業経営理論
- 運営管理(オペレーション・マネジメント)
- 経営法務
- 経営情報システム
- 中小企業経営・中小企業政策
【第2次筆記試験】
中小企業の診断及び助言に関する実務の事例Ⅰ~Ⅳ
- 事例Ⅰ:組織(人事を含む)を中心とした経営の戦略及び管理に関する事例
- 事例Ⅱ:マーケティング・流通を中心とした経営の戦略及び管理に関する事例
- 事例Ⅲ:生産・技術を中心とした経営の戦略及び管理に関する事例
- 事例Ⅳ:財務・会計を中心とした経営の戦略及び管理に関する事例
例年、8月に第1次試験(2日間で実施)、10月に第2次筆記試験、1月に第2次口述試験が行われます。第1次試験に合格すると第2次筆記試験へ、さらにこれに合格すると第2次口述試験へ進むことが可能です。
合格基準
- 第1次試験:総点数の60%以上を取ること、かつ満点の40%を下回る科目がないこと
- 第2次筆記試験:総点数の60%以上を取ること、かつ満点の40%を下回る科目がないこと
- 第2次口述試験:評定が60%以上であること
中小企業診断士第1次試験科目の内容・勉強法・科目合格率

ここからは、中小企業診断士の第1次試験について、全7科目それぞれの出題内容や合格率、勉強のポイントを紹介します。試験勉強を始める前に、各科目の特徴を把握しておきましょう。
第1次試験の各科目では、満点の60%以上を取ると科目合格となります。科目合格の制度については「中小企業診断士試験の科目合格・科目免除制度とは」の項目でも詳しく解説します。
経済学・経済政策
経済学・経済政策では、マクロ経済学・ミクロ経済学の主要理論と、それに基づく経済政策が問われます。具体的な出題内容は、経済指標の見方、政府支出、租税、貿易政策、国際収支、主要経済理論、市場メカニズム、需要・供給曲線、ゲーム理論、所得分配などです。
この科目の特徴は、数式やグラフを使った出題が多い点にあります。特にグラフの読み取りは、繰り返し学習してマスターすることが欠かせません。また、頻出の基本理論については、ただ暗記するのではなく背景や理由までしっかりと理解し、確実に得点につなげたいところです。
経済学・経済政策の試験は第1次試験の1日目に行われ、試験時間は60分。過去3年分の科目合格率は、下表のとおりです。
| 年度 | 合格率 |
|---|---|
| 2022年度 | 10.5% |
| 2023年度 | 13.1% |
| 2024年度 | 14.3% |
財務・会計
財務・会計で問われるのは、財務諸表による経営分析や投資意思決定など、財務・会計の実務に直結する知識です。簿記・企業会計・税務会計の基礎、原価計算、利益の管理、資金調達、投資、企業価値など、出題内容は多岐にわたります。
この科目の特徴は、計算問題が多いこと。試験に電卓は持ち込めないので、紙と鉛筆で正しく計算する訓練を重ねましょう。会計分野に関しては、簿記知識がある人は有利ですが、そうでない人は会計の仕組みを理解することから始めるのがポイントです。
財務・会計の試験は第1次試験の1日目に行われ、試験時間は60分。過去3年分の科目合格率は、下表のとおりです。
| 年度 | 合格率 |
|---|---|
| 2022年度 | 13.3% |
| 2023年度 | 14.3% |
| 2024年度 | 15.1% |
企業経営理論
企業経営理論では、経営戦略論、組織論、マーケティング論の3テーマに渡る広範な知識が問われます。具体的な内容は、競争戦略、技術経営、組織変革、人的資源管理、マーケティング計画、ブランディングなどで、とにかく範囲が広いのが特徴です。
この科目は具体例を使った問題が多く、丸暗記では対応できないと言われています。理論やフレームワークはただ覚えるのではなく、事例に当てはめて実践的に理解すると良いでしょう。問題文が長く言い回しも独特なため、過去問を活用して問題形式に慣れることも不可欠です。
企業経営理論の試験は第1次試験の1日目に行われ、試験時間は90分です。過去3年分の科目合格率は、下表のとおりとなっています。
| 年度 | 合格率 |
|---|---|
| 2022年度 | 17.3% |
| 2023年度 | 19.8% |
| 2024年度 | 39.9% |
運営管理(オペレーション・マネジメント)
運営管理(オペレーション・マネジメント)では、生産管理と店舗・販売管理の2テーマで、製造業や小売業の現場運営に関する知識が問われます。品質管理や作業管理、商品仕入、売場構成・陳列など、実際のオペレーションに結び付く問題が多く出ます。
この科目は範囲が広いので、まずは基本的事項と、生産方式、在庫管理、物流管理といった頻出分野を確実にマスターしましょう。工場や店舗の現場を具体的にイメージしながら理解することも大切。図解入りテキストなどを活用し、ビジュアルで覚えるのが効果的です。
運営管理(オペレーション・マネジメント)の試験は第1次試験の1日目に行われ、試験時間は90分です。過去3年分の科目合格率は下表のとおりで、難易度には波があります。
| 年度 | 合格率 |
|---|---|
| 2022年度 | 16.1% |
| 2023年度 | 8.7% |
| 2024年度 | 26.8% |
経営法務
経営法務では、企業経営に関係する法律や諸制度、手続きについての基本的な知識が問われます。会社の設立・倒産の手続きや知的財産権、契約実務のほか、民法、会社法、独占禁止法などの企業活動に関わる法律知識が出題対象です。
このうち特に出題されやすいのは知的財産権と会社法ですので、この2分野を優先的に勉強しましょう。法律の趣旨を理解しながら勉強すれば、暗記がしやすくなります。過去問を活用して出題形式に慣れるとともに、1~2年前ぐらいの法律改正も押さえておきましょう。
経営法務の試験は第1次試験の2日目に行われ、試験時間は60分です。過去3年分の科目合格率は、下表のとおりです。
| 年度 | 合格率 |
|---|---|
| 2022年度 | 26.9% |
| 2023年度 | 25.6% |
| 2024年度 | 13.2% |
経営情報システム
経営情報システムでは、情報通信技術に関する基礎的知識と、経営情報管理という2テーマで、経営情報システム全般の知識が問われます。プログラム設計、データベース、通信ネットワークといった技術的な知識のほか、情報システム戦略の策定や、情報システム開発、情報セキュリティなどが出題範囲です。
ITが得意な人は得点源にしやすい科目ですが、ITが苦手な場合は、ハードウェア・ソフトウェアやシステム開発手法といった基礎的かつ頻出の分野で、確実に点を取ることを目指しましょう。過去問も活用し、覚えやすいところからどんどん覚えていくのがおすすめです。
経営情報システムの試験は第1次試験の2日目に行われ、試験時間は60分です。過去3年分の科目合格率は、下表のとおりです。
| 年度 | 合格率 |
|---|---|
| 2022年度 | 18.5% |
| 2023年度 | 11.4% |
| 2024年度 | 15.6% |
中小企業経営・中小企業政策
中小企業経営・中小企業政策では、中小企業の経営特性や中小企業向けの政策が問われます。経済・産業における中小企業の役割や、統計を踏まえた中小企業の動向、中小企業が抱える課題のほか、創業支援、経営安定支援、金融支援といった各種政策が出題範囲です。
試験問題は、中小企業庁による「中小企業白書」や「中小企業施策利用ガイドブック」がベースとなっています。これらの資料を使い、重要なものを中心に具体的な数値や傾向、政策を覚えていきましょう。なお情報は毎年変わるので、過去問を使う際は必ず最新情報を確認することが大切です。
中小企業経営・中小企業政策の試験は第1次試験の2日目に行われ、試験時間は90分です。過去3年分の科目合格率は下表のとおりで、変動が大きいのが特徴です。
| 年度 | 合格率 |
|---|---|
| 2022年度 | 10.9% |
| 2023年度 | 20.6% |
| 2024年度 | 5.6% |
出典:同上
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中小企業診断士第2次試験科目の内容

ここでは、中小企業診断士第2次筆記試験について、4科目それぞれの内容を紹介します。なお、第2次筆記試験では科目別の合否はありません。
事例Ⅰ:組織(人事を含む)
事例Ⅰでは、組織や人事に関する課題を抱える企業を題材に、その企業の過去の成功・失敗要因や現状を分析し、課題を解決する能力が問われます。
2024年度の試験では、新市場を開拓するにあたり既存組織から独立した組織を作る意義や、事業展開に伴って行われる配置転換の目的などを問う問題が出されました。
ここでは、第1次試験科目の一つである企業経営理論における、組織論の知識が生かせます。
事例Ⅱ:マーケティング・流通
事例Ⅱでは、小売業やサービス業などの企業を題材に、企業の強み・弱みや外部環境を分析し、顧客やシェア拡大に向けて具体的なマーケティング施策を提案する力が問われます。
2024年度の試験問題は、事例企業の社内外の経営環境を分析したり、飽和市場で新たな需要を喚起する新規事業について助言したりするものでした。
この科目では、第1次試験科目の企業経営理論で問われる、経営戦略論とマーケティング論の知識が必要です。同じく、運営管理(オペレーション・マネジメント)の科目における店舗・販売管理の知識も求められます。
事例Ⅲ:生産・技術
事例Ⅲでは、生産に関する課題を抱える製造業の企業を題材に、その企業の強みと弱みを分析し、課題を見極め、その解決策を提示する力が問われます。製造業に特化していることが、この科目の大きな特徴です。
2024年度の試験では、コロナ禍以降の受注量増加に伴う生産面での課題や、材料費・人件費の高騰に対応した原価管理と契約プロセスの課題を整理し、解決策を助言する能力を問う問題が出ていました。
この科目には、第1次試験科目の運営管理(オペレーション・マネジメント)で問われる生産管理の知識が生かせます。
事例Ⅳ:財務・会計
事例Ⅳでは、損益計算書や貸借対照表といった財務諸表を読み取ったうえで、事例企業の強み・弱みを分析したり、課題を明確にして改善策を提案したりする能力が問われます。計算をして数字で解答する問題が多いのが、この科目の特徴です。
2024年度の試験では、事例企業と同業他社の財務諸表を分析して、経営診断に必要な財務指標を算出する問題や、その指標から企業の財務的特徴を読み取るという問題がありました。
この科目には、第1次試験科目の財務・会計の知識が直結します。また、一つの問題で算出した数字を、次の問題でも続けて使うケースがあるので、計算を正確に行うことも重要です。
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中小企業診断士試験の科目合格・科目免除制度とは
中小企業診断士試験では、第1次試験にのみ、科目ごとに合格できる「科目合格」の制度があります。第1次試験自体には合格しなくても、科目合格の基準(満点の60%以上)に達した科目があれば、その科目は合格となるのです。
また、科目合格になると、翌年度と翌々年度の第1次試験の際、申請すればその科目を受験する必要がなくなります。これを「科目免除」といいます。
科目免除制度を活用しながら3年間で全科目に合格すれば、第1次試験に合格できます。段階的に合格を目指せるシステムになっていますので、受験計画を立てる際の参考にしてください。
なお科目免除は、他資格の取得者も適用を受けられます。例えば、公認会計士や税理士の資格がある場合、申請により「財務・会計」の科目が免除されるのです。対象資格は複数あるので、経営に関係する資格を取得済みの人は、自分が科目免除を受けられるかどうか一度確認してみると良いでしょう。
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中小企業診断士試験対策で優先すべき科目は?
中小企業診断士試験は科目数が多いため、初めて受験する人のなかには、どの科目から勉強すれば良いのか迷う方もいるのではないでしょうか。
中小企業診断士試験でまず注力すべきなのは、第1次試験対策です。1次に合格しなければ2次には進めませんし、1次対策で学ぶ内容は2次対策にも役立ちます。第2次試験へのつながりを意識しながら、第1次試験対策を始めましょう。
なかでも特に優先的に勉強に着手したい科目は、第2次試験との関連が深い「財務・会計」「企業経営理論」「運営管理(オペレーション・マネジメント)」の3科目です。
ただし、この3科目にだけ力を注ぐのではなく、全科目をまんべんなく勉強するようにしましょう。中小企業診断士の筆記試験は、極端に点数の低い科目が一つでもあると合格できない仕組みとなっているからです。
また、一つの科目を細部まで完璧にマスターしようとすると、他科目を勉強する時間がなくなってしまうので注意しましょう。合格するには総得点の60%以上を取れば良いため、全科目で高得点を取る必要はないということを覚えておいてください。
中小企業診断士の試験科目を把握したら、合格を目指して勉強を始めよう
中小企業診断士の試験科目は、第1次試験が7科目、第2次筆記試験が4科目あり、各科目において幅広い知識が問われます。
試験制度や各科目の特徴を理解したら、さっそく第1次試験突破を目指して勉強をスタートしてみてください。優先度の高い3科目から始めて、どの科目もまんべんなく対策できるよう、勉強のスケジュールを立てることがポイントです。
覚える量は膨大ですが、合格に向けて一歩ずつ着実に知識を積み重ねていきましょう。
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