脳が本来の力を発揮するのは30代から!? 脳内科医が「大人脳」に合った勉強のコツを伝授!

脳が本来の力を発揮するのは30代から!? 脳内科医が「大人脳」に合った勉強のコツを伝授!

資格の勉強でものいうのは記憶力。学生時代の成功体験を思い出して参考書を開き、付箋や蛍光ペンを使って暗記に挑んだのに、なぜかあの頃のように覚えられない……。そんな状況に直面して、「自分の脳のピークは過ぎてしまったのかも」と自信をなくしてしまった人もいるのではないでしょうか。

しかし、脳内科医の加藤俊徳先生によると「脳の成長は、いくつになっても右肩上がり」なのだとか。脳は一生成長し続けるけれど、記憶のメカニズムが変わるので、若い頃と同じ勉強法では効率が悪くなる。それが、昔のように覚えられなくなる原因だというのです。さっそく、加藤先生に「大人脳」のメカニズムや、具体的な勉強法を教えてもらいましょう。

加藤俊徳先生
お話をうかがった方:加藤俊徳先生

脳内科医・小児科専門医。音読困難を改善する脳活性助詞強調音読法や、機能別に脳を鍛える脳番地トレーニングの提唱者。1995年から2001年まで、米ミネソタ大学放射線科で脳画像研究に従事。帰国後、慶應義塾大学、東京大学などで脳研究に従事し、「脳の学校」を創業。現在は「加藤プラチナクリニック」を開設し、独自のMRI脳画像診断で薬だけに頼らない脳トレ処方を行う。『仕事の「判断ミス」がなくなる脳の習慣』(クロスメディア・パブリッシング)、『子どもの脳は8タイプ 最新脳科学が教える才能の伸ばし方』(SBクリエイティブ)、『サクッとわかるビジネス教養 脳科学』(新星出版社)など著書・監修書も多数。

・脳の学校: https://www.nonogakko.com/
・加藤プラチナクリニック: https://www.nobanchi.com/

30代以降の脳には、若い頃よりも高度な機能が備わっている!?

30代以降の脳には、若い頃よりも高度な機能が備わっている?

──加藤先生は著書などで「脳は一生成長し続ける」と主張されています。それは本当でしょうか?

加藤:本当ですよ。脳の仕組みだけを見れば、脳細胞の数は20代でもゆるやかに減少しています。しかし、脳細胞の減少が脳の成長をストップさせるわけではありません。そもそも、人の生涯で脳細胞がもっとも多いのは、生後10カ月前後の乳児期。脳はむしろその後に成長していきます。

なぜなら、“脳力”を上げるのは脳細胞そのものではなく、脳細胞同士をつなぐ脳内ネットワークの発達だからです。実は私たちの脳内には、20歳どころか50歳になっても70歳になっても、未熟な神経細胞がたくさん残っています。それらに刺激を与えて脳内ネットワークが活発な状態を保てば、いくつになっても脳は成長し続けるのです。

──30代になったあたりから、「物覚えが悪くなった気がする」と感じる人が多いように思いますが、脳科学的に見ればそんなことはないのですね。

加藤:私は、脳のピークは30〜50代だと考えています。のちほど詳しくお話ししますが、脳の成長には順序があって、生まれてすぐに運動系を担う脳領域が発達し、そのあと視覚や聴覚を担う脳領域などが発達していきます。

そうしたなかで、記憶や理解といった複雑な情報処理を担う「超側頭野」がピークを迎えるのは30代。また、目や耳から入ってきた情報をもとに分析・理解する「超頭頂野」は40代、実行力や判断力を司る「超前頭野」は50代でピークを迎えます。

つまり、30代以降の脳には、若い頃よりも高度な機能が備わっているのです。なのに、なぜ中高年になると脳が衰えたように感じるのか。それは、大人になるにつれて、脳の成長を阻害するファクターが増えてくるからです。暴飲暴食によって体重が増加したり、血圧が高くなったり、睡眠不足が慢性化したりというのも成長阻害の一因となります。

──いわれてみれば、脳はあくまでも身体の臓器のひとつ。生活習慣や栄養状態に大きな影響を受けそうです。

加藤:そうしたファクターを取り除き、つねにピークの状態の脳を保っていれば、100歳以上のいわゆるセンテナリアンと呼ばれる方々でも新しい学習をできることがわかっています。

脳番地を同時に働かせることで、脳内ネットワークが強化される

脳番地を同時に働かせることで、脳内ネットワークが強化される

──さきほど「脳の成長には脳内ネットワークの発達が欠かせない」といったお話がありました。資格試験の勉強をがんばっている人の場合、どのような脳内ネットワークを活発にすればよいのでしょうか?

加藤:脳には1,000億個以上の神経細胞があり、得意分野ごとに集団を形成して脳内に拠点をつくっています。私はそれらの拠点を、それぞれの機能に基づいて「脳番地」と名づけました。正確にいうと脳番地は右脳と左脳に60ずつ、計120に分類できるのですが、そのなかでも特に重要なのは、以下の8つです。

1:思考系脳番地…思考や判断、計画などの高度な機能を担う司令塔

2:理解系脳番地…目や耳から入った情報を集めて分析・理解する、思考系の補佐役

3:記憶系脳番地…物事を覚えたり、思い出したりするときに働く「海馬」を中心とした領域

4:感情系脳番地…喜怒哀楽の感情を生み出すほか、他者の感情を読み取る働きも持っている領域

5:伝達系脳番地…自分の考えや気持ちを話したり伝えたりする働きを担う、脳の広報担当

6:運動系脳番地…体を動かすこと全般にかかわる領域

7:視覚系脳番地…目で見た情報を思考系、運動系、記憶系に渡す脳番地

8:聴覚系脳番地…耳から聞こえてきた情報を理解系、思考系、運動系、記憶系に渡す脳番地
──8つのなかでは、記憶系脳番地が試験勉強にいちばん関係しそうです。
加藤:おっしゃるとおりですが、残念ながら大人の脳の記憶系脳番地は、それ単体では思ったように働いてくれません。見聞きしたものをそのまま吸収できる“学生脳”は18歳ごろから徐々に衰えはじめ、それ以降、対応力や想像力など、より高度な機能を備えた“大人脳”へと脳のシステムが切り替わっていきます。

実のところ、「丸暗記」に焦点を絞れば、大人よりも子どものほうが向いているんですよ。子どもの頃、読み聞かせてもらった本やテレビ番組の内容を諳んじて、すらすらと暗唱できた、なんてことはなかったですか?

──ありました! 3歳くらいで『キュリー夫人』の伝記を暗唱して、親を驚かせたことがあったそうです。

加藤:聴覚系や視覚系から記憶系へとつながる脳番地のルートが、いちばん強くて使いやすいのが子どもの脳の特性で、そのルートがしっかりしている子どもほど「頭がよい」「勉強ができる」と評価されがちです。しかし、おそらく3歳のときに『キュリー夫人』の内容を理解していたわけではないですよね?

──字を読めたかどうかも定かではないので、理解はできていなかったと思います。何しろ3歳児ですから……。

加藤:それを「無意味記憶」といいますが、子どもは知らない言葉でも簡単に記憶することができます。一方、大人の脳は、子どもの頃より思考系や理解系が発達しているので、意味を理解しないとなかなか頭に入ってこない。意味を理解してから記憶する「意味記憶」が「無意味記憶」よりも優勢となるのです。

この現象を脳番地で説明すると、理解しようとする理解系脳番地を働かせていることになります。つまり、大人脳で効率的に勉強するためには、記憶系だけでなく複数の脳番地を同時に働かせる必要があり、それこそが脳内ネットワークを強化することにつながるのです。

脳番地の特性を利用した、大人ならではの勉強法とは?

脳番地の特性を利用した、大人ならではの勉強法とは?

──大人の脳は学生時代と記憶のメカニズムが違うから、それに合わせて勉強法も変える必要があるわけですね。具体的な勉強法についてもお聞かせください。

加藤:その前に、脳の記憶システムについてご説明しましょう。私たちが目や耳から集めた情報は、いったん脳の「海馬」へと送られます。そして、海馬は集まった「短期記憶」を整理・管理するとともに、「長期記憶」として残すものを選定します。

ここで重要なのは、ほとんどの短期記憶は長期記憶として残らずに、数日から数週間で消去されてしまうということです。脳には膨大な記憶容量があるといわれていますが、見聞きしたものをすべて記憶していたら、さすがに容量オーバーになってしまいますからね。

では、短期記憶を長期記憶として残すにはどうすればよいか。海馬に「この記憶は重要そうだ」と思わせることが必要になります。単に見聞きするだけでなく、ほかの脳番地が働いていればいるほど、海馬はその記憶を「重要だ」と判断するので、その特性を利用すれば長期記憶として保存されやすくなります。すなわち、海馬とほかの複数の脳番地が一緒に働く状態を作り出すのです。

──その一例が、さきほどの話にあった理解系脳番地を働かせながらの勉強でしょうか。

加藤:そういうことです。英語の文法を覚える場合は、学生時代のように丸暗記しようとするのではなく、どんなシチュエーションでどの文法を使えばいいのかを確認し、理解しながら覚えるようにしましょう。

英文法にかぎらず、化学式でも法令でも、どのような場面でその知識を生かすのかを理解しながら学ぶことが大事です。本を読むときは、「書いてあることを著者と同じレベルに扱えるようになる」くらいの意識で読み進めてください。

そうやって理解を深めたら、今度はそれらの知識を自分なりにノートにまとめたり、音読したり、SNSで発信したりしてみましょう。アウトプットを意識すると、伝達系脳番地が活性化してさらに脳内ネットワークが強化されるので、インプットにもよい影響を与えてくれます。

──記憶系と理解系に加え、伝達系脳番地も巻き込むわけですね。ほかにも脳番地を活用した勉強法はありますか?

加藤:海馬の隣には感情系脳番地の中心である扁桃体があるので、感情が大きく動く出来事があると、感情系と記憶系をつなぐ脳番地ルートが刺激されます。すると、海馬はそれを重要な情報だと判断してくれます。街で一度すれ違っただけの他人でも、「素敵な人!」と心が動けば、なぜかその人のことをいつまでも覚えていたりするでしょう? それと同じで、わくわくしたり、楽しんだりしながら勉強に挑むと、記憶力がぐんとアップするのです。

もちろん無理に勉強を好きになる必要はありません。今日の勉強が終わったら楽しみにしていた映画を観る、大好きなカフェラテを飲みながら勉強するなど、わくわくした気持ちで勉強に向かうことができればOKです。

──学生時代に親しんだ、付箋や蛍光ペンを駆使した勉強法とはずいぶん印象が違いますね。でも、大人脳の勉強法のほうが効率的に試験勉強に取り組めそうです。

加藤:より効率的にインプットするには、自分の脳がどう働くのかを知っておくことも重要です。すべての情報は目や耳から入ってくるとお伝えしましたが、聴覚系と視覚系は、人によってどちらがより優位に働くかが決まっています。

たとえば、本や参考書の文字を目で追うとよく理解できるけど、講義などで耳から情報を得ようとするとなかなか理解できない人は、視覚系脳番地が強いタイプ。逆に、テレビを観ているときに画面下のテロップを追いかけなくても、話し言葉がすっと頭に入ってくるような人は、聴覚系脳番地が強いタイプです。

視覚系が強い人は、覚えたいことをノートに書いたり、講義をメモしたりして可視化することが大切です。一方、聴覚系が強い人は音声教材や、覚えたいことを自分の声で読み上げて聞かせるような学習法が向いているでしょう。大人の勉強では、どちらのインプットが自分に向いているか把握することも、大きな手助けになるはずです。

試験本番までに、規則正しい生活習慣を身につけることも大事!

試験本番までに、規則正しい生活習慣を身につけることも大事!

──せっかく新しいことを覚えても、いざというときに思い出せない。そんなこともよくあるのですが、何か対策はありますか?

加藤:それも多くの人が中高年以降、脳や記憶力が衰えたと感じる理由のひとつですね。年齢を重ねるごとに、長期記憶の図書館には蔵書が増えていきます。そのため、特定の記憶を引っ張り出すのに時間がかかってしまうのです。

対策としてぜひやっていただきたいのは復習です。長期記憶を短期記憶として定期的に引き出すことで、いざというときに使える状態にしておく。そんなイメージですね。ちなみに何度も同じ情報を脳に送ると、海馬が「これは重要な情報だ」と判断するので、復習や反復はインプットにも効果的です。

そうしたことをふまえて私が推奨しているのは、朝に新しいことを覚え、夜に復習する学習法です。「朝は忙しい」という人は、出勤前や通勤時間の10分だけでも実践してみてください。

社会人だと、どうしても夜間や週末に勉強時間を設定しがちですが、実際の試験はほとんどが午前中か日中に行われますよね。ですから、その時間帯に脳がよく働く状態をつくっておかないと、本番でパフォーマンスを発揮できなくなる可能性があります。

──今回のお話の冒頭で、睡眠不足は脳の成長を阻害するファクターだともおっしゃっていました。大人の勉強は、生活習慣を見直すことから始めたほうがよさそうですね。

加藤:「テスト本番までに朝型生活に変えればいいんでしょう?」と思う人もいるかもしれませんが、脳の活動周期はすぐに変えられるものではありません。私はこの3年半で睡眠時間を3時間伸ばしましたが、30分伸ばすのに半年かかりました。

──ちなみに、3時間多く寝るようになって、日々の仕事や生活によい影響はありましたか?

加藤:それはもうたくさんあります。私はいま60代ですが、睡眠時間が不規則だった40代の頃より体調がよいだけでなく、頭もクリアになって、自分でも驚いているくらい。「あれ、自分は何歳だったっけ?」とわからなくなるほどエネルギーがみなぎっていて、新しい本を何冊でも書ける気がしています(笑)。

みなさんも「もう年かも」などと思わずに、脳番地の特性を理解して、自分に合った勉強方法や時間の使い方を見つけてみてください。そうすれば、楽しみながら効率よく勉強する習慣が身につけられるはずです。試験本番にむけて、今日からがんばってください!

著書情報
『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』
著:加藤俊徳
出版社:サンマーク出版

一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方(加藤俊徳)